ラナは胃カメラというものは口から太い管を入れて胃を覗くと思っていた。
しかし、技術が進んだのか、鼻からチューブを入れるのだ。
最初、医師は鼻からジェルのようなものを喉にかけて塗りつけた。
いわく、麻酔薬でチューブを入れても嘔吐感がしないように喉を麻痺させるというもの
であった。
たしかに、少ししたら鼻の奥から喉がやけに変な感触になった。
医師はそれを聞くと胃カメラのチューブを鼻からゆっくり入れていった。
医師は胃カメラを覗いていたがしばらくして顔をしかめて「ちょっと組織をとります
ね」と言った。
喋れないラナに代わって初音が聞いた。
「何かあるんですか?」
「ちょっと気になる部分があるので、精密検査に回そうかと思いましてね・・」
と、カメラを操作しながら医師は言った。
組織採集というのは案外簡単なものですぐ終わった。
ラナも胃の様子をモニターで見ていたが採集後出血したので麻酔のせいと喉のチューブ
のせいで喋る
のがやっとなのだが聞いた。
「血が出てますけど・・」
「ああ、これはすぐに止まりますよ。」
無表情で医師は言った。
そうして胃カメラ検査は終わった。
医師は「検査結果が出るまで数日かかるのでしばらく待ってください。とりあえず強め
の胃薬を出してお
きますから」
と言った。
その日の内科検査はそれで終わりだった。
心療内科も受診したが問診だけでラナにとっては退屈だった。
大体こんな落書きとも模様ともよくわからないものを見せて「これが何に見えます
か?」って謎々じゃある
まいし・・と思った(もちろん口には出さなかった)。
※筆者注:「ロールシャッハ」というテストで実際にあります
病院を出るころには麻酔も取れ、時間も中途半端なのでラナは初音に誘われるまま病院
の中の喫茶店に入った。
「・・今井さん、それで気分はどうかしら?」
「・・胃カメラがあんなだとは思いませんでした・・」
「そうよね、私もてっきり口から入れるものだと思っていたわ。しかし精密検査という
のは気になるわね・・」
「・・・」
「まぁ、単なる胃炎程度でしょうけど、こういうのは白黒はっきりした方がいいか
ら・・」
「・・・」
「薬も貰ったし、もう大丈夫よね?」
「はい・・」
初音は気がつかなかった。ラナの中に胃痛がひどくなって以来、ずっと直感めいたもの があり、それがあることを告げていることを・・
初音と別れて、ラナは智代のもとへ向かった。
その途中、ショーウインドウに映った自分の顔を見て「ひどい顔・・」というため息が
漏れた。
それでも、智代のところに行かないと智代は出版社に電話をかけかねない。
「心配性だから、あの子は・・」
苦笑しながら、ラナは街を歩いて行った。
数日たって病院から富士出版のラナに電話かがかってきた。
病院からだった。
ラナは智代のところに行っていたので初音が電話を受けた。
「・・・・!」
それはラナの直感が正しいことを示すものであった。