ラナは佐野初音編集長代理に会社の応接室に呼び出された。
2人きりの応接室で、初音は切り出した。
「今井さん、ダイエットは順調かしら?」
なんて皮肉っぽい言い方なんだろうと思ったが、「ええ、順調ですよ。数字が減っていくのが楽しいです」
と、ラナは答えた。
「貴女の痩せ方があまりに異様なので貴女の担当している葉山先生や同僚のみんなも心配してるわよ」
「・・・」
「私は、編集長代理として部下を管理する立場にあります。でもそんなのは建前で本当はみんなと楽しくやりたいという話はしたことがあったわね?」
ラナは思いだした。
佐野初音という女性は見た目が割ときつい印象で実際物事をずけずけ言うものだから彼女を陰で悪くいう者もいるのだ。
しかし、ラナは知っていた。この初音という女性がとても優しく頼りがいがあるということを・・
それはラナが富士出版に入りたての頃。
ラナはある担当作家についていたがとことんウマが合わなかった。
しかし、そういうことを口に出すのは編集者失格だと思い込んで悩みを抱え込んでいた。
そんなある日、編集部で飲み会があった。
ラナはそれなりにお酒が飲めるのだが、この日は日ごろの鬱憤もあって深酒してしまい、前後不覚になった。
その時、ラナの酒の飲み方が変だと気がついたのは初音だった。
普段のラナのお酒の飲み方をある程度知っていた初音はこんな深酒するほどなにかあると勘づき、酔ったラナをバーに誘った。
そこでラナが担当作家とうまく関係が築けていないこと、こういうことを口にするのはラナ自身が抑えていたのだということを知った。
ラナの苦しみを聞いた初音の行動は早かった。
編集長に直談判して初音がラナの担当していた作家の担当になった。
また、初音は新人のラナに易しい作家の担当にしてもらうように他の編集者にも声をかけてラナの仕事上の不安を減らすよう努力してくれた。
その新しい担当作家とうまく関係が築けたことで編集者の基礎と自信ができてラナは経験を積んでいったのだ。
ちなみに、この酔い潰れたときにラナは色々な事を話したらしいがラナは覚えていない。
初音に聞いても「さぁ・・ね。」とはぐらかされてしまうのだ。
覚えてるのは初音がグラスを片手に「私も皆と仲良くやりたいんだけど、表面ではうまくいってもなかなか深い付き合いにならないのよね・・。
もっと皆と色々なところに行ったりしたいんだけどな・・」
という寂しそうな表情だけだ。
「・・・」
「今井さん、ちょっと、聞いてるの?」
「は、はい、すみません・・」
「何か悩みでもあるの?あるなら遠慮なくいってちょうだい。葉山先生となにかあったの?」
「いえ・・先生とは何もないです・・」
「それなら、どうして急にダイエットなんて言い出すの?私が見ても以前の貴女は全然太っていなかったわよ」
「・・・」
「どうしても言いたくないなら、仕方ありません。深くは追求しません。しかし!」
と、初音はラナを指差してこう告げた。
「業務命令です。一日病院に行って体や心の状態を検査してもらうこと!検査には私も付いていきます」
「そ、そんな・・小学生じゃあるまいし・・編集長代理、見逃してもらえませんか・・?」
「編集者、いや、社会人たるもの自己管理は当然の義務です。それを貴女は一人ではできていない。それなら「保護者」が必要でしょう・・?」
がっくりとうなだれるラナ。どうしてこの人はこう手際がいいというかなんというか・・
「病院の予約は取ってます。一週間後に、S病院に行きます。以上」
そう言い残すと初音は部屋を出て行った。
ラナは困惑して呟いた。
「どうしよう・・このままじゃ、ばれちゃうよ・・」