第64章ー悲劇の連鎖ー

 美奈が富士出版のデスクで書類を整理していたらラナの携帯が鳴った。
 ラナにメール?一体だれが・・?
 初音もやってきて二人で携帯メールを見た。
 そこにはこう書いてあった。
 「今井先輩、敵は討ちましたよ・・姶良」
 初音が尋ねる。
 「岡田さん、この人、どなたですか?」
 美奈は動揺を隠せなかった。
 ラナの葬式の時自分と瑠奈の口げんかを一部始終聞いていたラナの後輩だ。
 取り乱しようからラナを凄く慕っていたようだが・・「敵を討った」って、まさか・・
 
 テレビでニュース速報が流れた。
 「三千院家の一人娘、殺害される」
 ニュース速報で瑠奈が死んだことを聞いて美奈の疑念は確信へと変わって行った。
 それを確かめるように容疑者の名前が告げられた。
 影崎姶良容疑者。
 それを聞いて美奈がへたり込んだ。
 様子がおかしい美奈を見て初音が詰問する。
 「ちょっと、岡田さん、どうしたの!影崎姶良容疑者と貴女って・・」
 「編集長代理・・・」
 美奈が弱弱しく答えた。
 「私、人の人生、狂わせちゃいました・・瑠奈さんと私がラナのことで口げんかしてた
 のを彼女が聞いて・・は・・はは・・」
 そういうと美奈は目から涙を流しながらへらへらと笑いだした。乾いた笑いだった。
 「岡田さん・・」
 初音は壊れた美奈を眺めるしかなかった。
 
 瑠奈が殺害され、その容疑者がかつてラナとディナーに出かけた時出会った姶良だというこ
 とをテレビで知った智代にも悲劇は降りかかった。
 智代は「恋愛の現実」を知り、その日以来恋愛物語が全く書けなくなってしまった。
 初音は短編で何集か出版にこぎつけてくれたが評判は散々だった。
 それはそうだ。智代は上の空で書いていたのだから。
 何より智代が痛手を被ったのは自分が恋愛に対して甘いものをイメージしていたのでこの「現実」
 を目の前にしたら恋愛が恐ろしくなってしまい、心理が分からなくなったのだ。
 智代はかつて自分が嫌って出た鉛色の空をした郷里に帰ることにした。
 初音や富士出版の皆は引きとめたが、智代にはもう、物語が書けなかった。
 こうして智代は絶望と悲しみを胸に郷里への電車に乗って行った。
 
 美奈は「その日」以来、壊れてしまった。
 そのままだと自責の念から自殺の可能性があるというので、精神病院に入院になった。
 医師から経過が逐一初音に入るようになっているが状況は思わしくないようだ。
 美奈は不注意でラナにがんが治らないことを聞かれたことと、瑠奈と状況を詳しく説明した口喧嘩を
 したことで結果瑠奈を死に追いやり、姶良を殺人犯にしてしまったことで、苦しんでいるという。
 美奈は一応休職扱いになっているが復帰は難しいという・・
 
 和彦は瑠奈が殺されたと聞いて驚いた。しかも犯人は後輩の影崎だった。
 三千院の籠に閉じ込められて何もできない・・と思っていたところに三千院から連絡があった。
 三千院は姶良がラナを慕っていたことを知っていて、和彦が瑠奈よりラナに心を寄せつつあったこと
 を知っていた。
 瑠奈が死に、婿に行けなくなった和彦には三千院から莫大な貸付金の取り立てがあった。
 和彦は資金集めに奔走したが到底払える額ではなかった。
 和彦の父は自分の息子が三千院財閥の跡取りになることを喜んでいたが破談になり、倒れた。
 そして和彦に恨み言を言いながらあっけなく世を去ってしまった。
 和彦は会社を整理し、家族もばらばらになってしまった。
 そうして和彦も東京から姿を消した。
 
 姶良は裁判の過程で精神鑑定を受けたが責任能力があるということで裁判を受けている。
 殺した相手が相手なだけにマスコミの取材も激しく、姶良の過去も徹底的に暴かれた。
 ラナや和彦の名前があまり出なかったのは三千院が手をまわしたのだろうか。
 現在、姶良の弁護団が執行猶予ではなく刑期の短縮を望んで争っているところである。
 
 そして初音は・・

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