第63章ー瑠奈の最期ー

 背中に激痛を感じた瑠奈が振り返ると自分の背中に包丁を突き立てている鬼のような
 形相をした姶良がいた。
 さっきまで泣いていただけの姶良とはまるで別人のような形相に瑠奈は驚いた。
 姶良が叫びながら包丁を瑠奈に突き刺す。
 「お前さえ・・お前さえいなかったら・・!」
 姶良は泣きながら何度も瑠奈に刃を突き立てた。
 噴き出す鮮血。お気に入りの着物が自分の血で真っ赤に染まっていく。
 瑠奈は最期にある人の名前を叫んだ。
 実際は叫ぼうとしたが、もう声は出ず、心で叫ぶ形になったが。
 その名は和彦であった。
 自分を三千院の呪縛から解放してくれると信じた和彦。
 和彦の妻になれば自分が呪縛に支配される側から支配する側に変わる。
 そうすればもう少し色々な事を制約なしに楽しめると信じていた。
 しかし、実際の和彦に触れて瑠奈自身が気が付かない間に和彦の人柄に惹かれていたのだ。
 ・・・こんなことなら普通に出会いたかった・・
 それが、瑠奈の最期の思考であった。
 そのあと、瑠奈の思考は闇に閉ざされた。
 
 姶良は瑠奈が動かなくなった後も瑠奈だった肉体を切り刻んでいた。
 自分は返り血をたくさん浴び、その味が何とも不味かった。
 
 その凶行が収まると、瑠奈は携帯電話を取り出した。
 メールを打つ。
 相手は今は亡き今井ラナであった。
 ラナは死んでいるので携帯も解約されたかもしれない。
 それでも姶良はこうせずには居られなかった。
 メールにはこう書いた。
 「ラナ先輩、敵は討ちましたよ。」
 そのあと、姶良は電話をかけた。
 「もしもし、警察ですか・・?私、人を殺しました・・」

目次へ戻る

←第62章へ

→第64章へ