第62章ー夕焼けの、神社ー

 夕焼けの美しい夕方だ。
 明日も晴れるだろう。
 そう、今日で「今井ラナ」の呪縛から自分も和彦も解放されなくてはならない。
 瑠奈はそう思いながら神社の石段を一段一段上って行った。
 和服でこの階段は辛いわね・・洋服にしたら良かったかしら?
 階段をのぼりながら瑠奈は思った。
 
 階段を登り終えると視野が開けた。
 境内だ。
 しかし、指定の時間にもかかわらず、「今井ラナの代理人」らしい人はいない。
 というか人影が全くない。
 ・・・なんだ、嘘でしたの・・
 そう思った時、拝殿の奥から人が出てきた。
 女性だ。ラフな服装に少し風変わりな雰囲気を放つ女性。それは影崎姶良その人であった。
 こういうときは先手を取るに限る。そう思った瑠奈は声をかけた。
 「貴女が、「今井ラナの代理人」さん?」
 「三千院、瑠奈さんですね・・」姶良が答える。
 「まず、ご自分から名乗ってはいかがですか?こういうときは誘った方が名前を名乗るものですよ」
 高飛車に瑠奈が答える。
 「私は今井ラナの代理人・・それだけで結構です・・」姶良が答える。
 「そうですの・・それならそれでいいでしょう。よく私の連絡先が分かりましたね。そしてわたくし
 に一体何の御用ですか?少なくとも、わたくしは貴女なんて全然知らないんですけど。」瑠奈が冷た
 く言う。
 「三千院瑠奈・・貴女が三千院財閥の人間だと知っていたから、この名前を使えば絶対貴女は動くと
 思った・・」姶良が静かに答えた。
 「貴女が今井ラナ先輩の葬式に来た時、私はすべてを知った・・・貴女・・いや、お前が今井先輩を
 死なせたって!」
 ふんと鼻で笑って瑠奈が答える。
 「誤解なさっていませんか?わたくしはあの方の終末に最高のコンディションを用意してあげたんですよ。
 それを感謝されるどころか、恨まれる筋合いがどこにあるのやら・・」
 「お前がラナ先輩と天野先輩を引き離したから、ラナ先輩、生きる気力そのものを失って死んだんだ!」
 「以前、別の方にもお話しした記憶がありますが、元々わたくしたちは許嫁だったのですよ。そこにあの
 今井さんという方が割り込んできたのです。わたくしは当然のことをしただけですわ。」
 「お前にだって人間としての感情があるなら、ラナ先輩が天野先輩を生きる糧、頑張りにしてたってこと
 が分かるでしょ!それを・・それを・・」
 姶良は感情が高ぶりすぎて泣き始めた。
 姶良の目の前に立って姶良を見下して瑠奈は言った。
 「もう、これ以上わたくしたちの邪魔はしないでくださいまし。その方が貴女のためですよ。」
 
 勝った。完璧にこの目の前の女性を言い負かした。
 ラナ先輩、天野先輩と言っていたから多分この女性は東都大学のサークル関係者なんだろう。
 聡明な瑠奈はそこまで感じ取った。
 打ちひしがれている姶良に瑠奈は言った。
 「それでは、これで・・貴女も早く今井ラナなんて人間のことは忘れた方がいいですよ。その方が今井さんも
 天国で喜んでいらっしゃるでしょう・・」
 
 瑠奈は泣いている姶良に背を向けて立ち去ろうとした。
 その瞬間背中に激痛が走った。
 「・・?」

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