第60章ー和彦の抵抗ー

 和彦はラナの葬儀に顔を出さなかった。
 無論、和彦はラナが死んだことを知っていた。
 しかし、瑠奈が押しとどめ、秘書の袴田に仕事をぎっちり詰め込まれて参列できなかった。
 香典や電報を考えたが全て袴田と瑠奈に封殺された。
 
 今回の一件は和彦の心から瑠奈への情を醒めさせるには十分だった。
 そこで、和彦はラナの死の前後から三千院の家と婚約を解消する方向で動いた。
 しかし、現実は冷徹だった。
 三千院家は待望の婿候補が婚約を辞退したいと言った時最初びっくりしていたが、やがてその恐ろしい本性を
 見せてきた。
 三千院は婚約を解消した場合、和彦の父の代に貸しつけた金額に利子をつけて返すように言ってきた。
 その利子は法律の上限いっぱいのもので、和彦が婿入りするというので返済の義務はない代物で、貸し付けて
 から年月がたっていた。和彦が婚約を解消したら、とんでもない金額の負債が天野商事およびそのグループ会
 社にのしかかって来ることになる。
 
 和彦は悩んだ。
 自分が曖昧な態度を取ったばかりにラナは自死に近い形で死んでしまった。
 そのラナにホスピスを勧める代わりに自分との糸を断ち切った瑠奈。
 瑠奈の必死な感情も分からないではなかったが、瑠奈と最初に対面した時に感じた冷たい感じはあながち
 間違っていなかったんだと和彦は思った。
 
 ラナの葬儀が終わって数日、和彦は相変わらず忙殺されていて瑠奈ともろくに会っていなかった。
 しかし三千院には婚約解消の話をずっと持ちかけていた。
 瑠奈もそれは聞いていた。
 しかし、瑠奈は和彦が自分を捨てたら三千院は間違いなく天野家を潰すことが分かっていた。
 和彦がそんなわかりきった未来を選ぶとも思えず、瑠奈は少し余裕じみた態度で日々を過ごした。
 そんなとき、瑠奈に手紙が届いた。
 差出人は「今井ラナの代理人」とあった。

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