第56章ー姶良の過去(3)ー

 
 ラナのやや強引な勧誘で姶良はサイクリングサークルに入った。
 もっとも最初のうちはラナの面目が潰れないようにうまく理由をつけてやめてやる、と思っていた。
 しかし、ラナは伊達に「クイーン」の名を称していただけあって心遣いがとても細やかだった。
 姶良が空気を読めずに気まずい発言をしてもその場を取り繕ってくれた。
 そういうことが何度もあって、姶良のラナへの感情は思慕へと変わって行った。
 ああ、世の中にはこんな人もいるんだ・・
 姶良は生まれて初めて「自分の居場所」を見つけたような気がしたのだった。
 
 和彦が卒業間近になった時、姶良は和彦とラナをくっつけようとする計画があることを聞かされた。
 姶良も協力すると言ったものの内心は不安だった。
 もし和彦とラナがくっつけばひょっとしたらラナは今ほど自分にかまってくれなくなるんじゃないか?
 そうしたら、またあの一人、冷たく暗い場所へ・・
 そう思うと姶良は表面上は協力すると言っても内心はあまり乗り気ではなかった。
 
 和彦が卒業し、ラナは相変わらずであった。
 計画が失敗したとサークルメンバーから聞かされ、少しほっとした自分がいた。
 と同時にそんな感情を抱いた自分に嫌気がさした姶良がいた。
 ラナは表面上は全く変わりないように見えたがラナにくっついていた姶良にはラナの行動が少し無理をして
 いることにうすうす気がついた。
 ラナに和彦とその後のことを聞きたかったが、人の傷口に塩を塗るんじゃないか、そう思うと何も聞けなかった。
 そうしているうちにラナも卒業した。
 卒業前、ラナは富士出版に就職すると姶良は聞いていた。
 また、姶良が卒業年度になるとOBの名簿が渡された。
 姶良はサークルのOB会に入らなかった。
 ラナ以外の人とはあまり親密になれなかったからだ。
 しかしその名簿からラナが東京にいることを知った。
 その住所を控えて姶良は卒業後、ラナの住んでる町の隣町に居を構えた。
 ラナとの偶然をを装った邂逅を夢見て・・

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