影崎姶良は瀬戸内の温暖な海沿いの漁村に生まれた。
姶良は物心ついたときから突拍子のない言動で周囲を驚かせていた。
しかし当人はなぜ自分の言うことが皆と違うかわからなかった。
そんな他の子供たちと一風変わった姶良は小学校、中学校、高校といじめの対象となった。
姶良はそのたびに反撃して表面的ないじめは何れも撲滅してきた。
しかし、その姶良を待ち構えていた次の段階は完全な「無視」だった。
はぁ・・人間関係ってこんなものなのか・・
いつしか、姶良は人間関係そのものに諦めに似た感情を抱くにいたった。
大学受験の際、姶良の地元にも大学はあったが、東京に出たら自分の風変わりさも様々な人
の個性に溶解していくかな・・と思い、姶良は上京を決意した。
そうして姶良は東都大学を受けた。
姶良は風変わりではあったが頭は悪くなかった。記憶力も良かった。
高校もクラスではトップクラスの成績だったので、東都大学はあっさり受かった。
大学には受かったが、いざ受かると姶良には一抹の不安が生じた。
大東京で自分はやって行けるだろうかとか新しい環境への適応に関する不安だった。
月日は待ってくれない。
姶良が上京する日がやってきた。
ホームには両親が見送りに来てくれた。友人といえる存在は誰もいなかった。
両親の表情はあまり冴えなかった。
東京で姶良の風変わりな個性が悪い方向に出やしないか心配していたのだ。
「それじゃぁ、行って来るね・・」
「体には気をつけてな・・何かあったらすぐ連絡するんだよ。」
月並みな会話を両親と交わして姶良は東京に向かった。