姶良は原付バイクを道路の端に停めると、セレモニーホールに入って行った。
まさか・・今井先輩じゃないわよね・・
姶良はわらにもすがる思いで会場に入った。
通夜の会場には人がたくさんいたが姶良はその中に見覚えのある人物を見つけた。
「葉山・・先生?」
この場でその名前で呼ばれることを全く想定しなかった智代はびっくりして振り返った。
「あ、ああ・・以前お会いした・・」
「影崎です・・葉山先生・・まさか・・」
智代は悲しみをぐっと押し殺して告げた。
「そうよ、ラナなの。ラナ、死んだのよ・・」
「・・・・そ、そんな・・」
よろめく姶良。そんな姶良に智代は続けた。
「ラナね、がんだったの。早期に手術してたら治ったかもしれないのに・・ううっ・・」
そこまで話すと、智代は泣き始めた。
その智代の様子を見て、受付で香典の係をしていた美奈がやってきた。
「葉山先生、こちらは・・?」
美奈が尋ねる。喪服も着ず、普段着の姶良は明らかに浮いていたからだ。
「・・・ラナのね、大学の後輩なんだって。名前は・・」
「影崎・・影崎・・姶良です・・」
「・・そう、ラナのね・・影崎さん、ラナの顔、見てあげて・・」美奈が言った。
促されて棺のそばに行ってラナの顔を見た。
つい半年ほど前、ラナにあった時とは別人に見えるほど、その顔はやつれていた。
その死に顔を見て、姶良はラナが死んだということを改めて実感した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
姶良の嗚咽が会場にこだました。
その声はあまりに大きかったので会場の全員が姶良の方を見たくらいだった。
そうして姶良の周りに人垣ができた。
大学時代の仲間だった。
「影崎!久々だな・・お前、サークルの同窓会に入ってなかっただろう?だから、今回のことも連絡できなくて・・
お前、今井のこと、慕ってたからな・・」
姶良の先輩の男性が言った。
しかし、姶良には周りの人の声が聞こえなかった。自分の慕ってやまない今井先輩が死んだ・・
その重たく、冷たい現実が姶良を打ち砕いていたのだった・・
姶良の頭の中をラナとの思い出が走馬灯のようにぐるぐると回っていた・・