瑠奈と父の話し合いが行われて数日が経った。
瑠奈が誰とも話さない退屈ないつも通りの休み時間を頬杖をついて外をぼんやりと眺めていると
クラスメートの噂話が聞こえてきた。
「えー!嘘!信じられないわ」
「私も最初は目を疑ったわよ。でも・・」
「リコリスプロダクションってこれからって時になぜ・・?」
「記事によると何か大きなミスをしたらしいわ・・」
リコリスプロダクション・・?
その単語を聞いて瑠奈はふと意識がそのうわさ話に向いた。
たしか瑠奈をスカウトしたプロダクションだ。
一体何が・・?
瑠奈は立ち上がるとそのクラスメートの許へと歩いて行った。
「さ、三千院さん・・」
クラスメートの瑠奈への感情はどちらかというと畏怖に近いものだった。
なぜなら彼女の家は日本ではできないことが少ないほどの大財閥だったから、彼女とトラブルになることは
自分のみならず家族の社会的抹殺もあり得ることだったからだ。
瑠奈は何も言わずにクラスメートが開いていた雑誌を手に取ると記事に目を走らせた。
そこには業界で成長株だったリコリスプロダクションが突然の解散宣言を出した、という記事があった。
しかし、解散の原因については切り口が浅く、あれこれ推測を書き並べているだけだった。
瑠奈は直感した。
「わたくしのせいね・・」瑠奈が呻く。
しかしそれは誰の耳にも聞こえない小さな声だった。
「三千院さん、顔色が悪いわよ。保健室、行きましょうか?」
瑠奈の心中を察するはずもないクラスメートが瑠奈に言う。
「・・大丈夫ですわ・・ごめんなさい、ちょっと疲れてるみたい・・」
瑠奈はよろよろと自分の席へと帰った。
外の世界を垣間見せてくれた石川というスカウト。
あの人はわたくしを三千院の者と知らずに「わたくし自身」を見てスカウトしてくれた。
はじめて「わたくし個人」を見て・・
それが・・・
瑠奈は帰宅すると父のオフィスへと直行した。