第50章ー衰弱、そしてー

 
「まほろば荘」に移ったラナは日々をかみしめるように過ごしていた。
 初音編集長代理や美奈、そして智代が日替わりで見舞いにやってきた。
 ラナは「まほろば荘」での毎日にとても満足してるように、当初は見えた。
 しかし、それが誤解だということがやがて分かってきた。
 
 ラナは和彦という生きる希望そのものを失い、急速に衰弱して行った。
 そして寝込む日が多くなり、起きてる日でも立って歩くのがやっとという状態になって行った。
 その様子を見ていた初音が動いた。
 和彦に一度でいいから会いに来てほしいと禁を破った願い出を申し出た。
 和彦は知らなかった。
 ラナがホスピスにいることも、急速に衰弱してることも。
 ただ、瑠奈がラナと話し合って和彦の件は一見落着したというのに乗せられていたのだ。
 あわてて「まほろば荘」を訪れた和彦。
 しかし目の前にいたのは和彦の知っている元気なラナではなく、衰弱して喋るのも絶え絶えなラナだった。
 和彦は瑠奈の嘘を怨むと同時に何もできない自分を呪った。
 そんな和彦の心中を悟ったか、ラナが口を開いた。
 「あま・・の・・先輩・・私、貴方を好きでよかったですよ・・」
 うんうんと泣きながらうなずく和彦。しかしその次の言葉に和彦は言葉を失った。
 「さぁ、瑠奈さんのところへ・・そしてもう私のところへは来ないでください・・」
 「どうして?君は僕がお見舞いに来るのが迷惑なのか?」
 「私、気がついたんです・・もう私の居場所はこの世界にはないって・・」
 「・・・」
 「がんと少しでも戦おうとした私がバカでした・・希望の後ろには絶望があるって言
 うこの世の摂理は・・知ってたつもりですが・・」
 ラナの目から涙が流れた。
 「私、もう本当に先輩を諦めました・・どうか・・お幸せに・・」
 
 そういうとラナは眠りについてしまった。
 和彦は駐車場に行くと停めてあった自分の車の中で男泣きに泣くのだった。
 
 そして・・・・
 
 東京に初めて雪が積もった日、ラナは「まほろば荘」で智代、初音、美奈に見送られながら
 静かに息を引き取った・・
 
 智代とのディナーから丁度半年が過ぎようとした冬の朝の出来事だった・・
 
 
 

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