瑠奈はにこやかにラナに提案した。
提案と言っても瑠奈の表情には「NO」と言わさないというオーラが漂っていたが。
「ホスピス?」
「そうよ、今井さん、わたくし、貴女がやがてチューブや呼吸器に繋がれてただ「生きているだけ」という
存在になることがどうにも我慢できないんですの。同じ死ぬなら「人間らしく」死んでいきたいでしょう?」
ラナは驚いた。この人は和彦という男性をめぐって敵対関係にあるはずなのだ。
それなのに・・?
「三千院さん・・聞いていいかしら?どうして・・?」
瑠奈の答えに横で聞いていた美奈は面喰った。
「確かにわたくしと貴女は俗に言う恋敵です。でも貴女はがんで和彦さんをこれからサポートできない。
そこでこの話と引き換えに和彦さんとは会わない、そう約束していただきたいんですの。」
美奈が割り込む。
「ちょっと!いくらラナがいいと言っても私が許しません!天野社長はラナの生きる糧そのものなのよ!
それを奪ったら・・・」
「でも、このままいくと先に申したように今井さん、チューブに繋がれて生きてるだけ、そういう存在
になるのよ。貴女がどなたかはわたくしは存じませんが、今井さんのためを思うと仕方がないんじゃなくて?」
「でも・・」
ラナは考えていたが、静かに言った。
「いいわ、私、ホスピスに行く。その代わりもう和彦・・いや天野社長とは会いません。」
「ちょっと、ラナ!!」
「いいのよ、美奈。そりゃ私が健康だったらどんな要求でも断ってバトルしたと思うの。でもこの人の言う通
り、私はがんでもう長くない。そしてその私の影が和彦さんやこの人たちの家庭に悪影響を及ぼしたくないの。
この世は所詮、生者の世界。死ぬべきものに居場所はないのよ・・」
「ラナ・・」
やり取りを見てほくそ笑む瑠奈。瑠奈はラナに恩を売ることで和彦からラナを切り離すことに成功したのだ。
それからしばらくしてラナはホスピス「まほろば荘」に引っ越した。
これですべてがうまくいく・・皆はそう思っていた・・