その日、美奈がラナの身の回りの物を持って病室にやってきていた。
ラナは自分が治る見込みが殆どないことを改めて知って塞ぎこんでしまっていた。
美奈はそんなラナにどう接していいかわからず、二人の間には気まずい沈黙が流れていた。
その時、病室のドアをノックする音が聞こえた。
ラナは返事をしなかった。人形のように視線は宙を彷徨っていた。
美奈が応えた。
「はい、どうぞ」
入ってきたのは瑠奈だった。
瑠奈を知らない美奈は言った。
「あの・・どちらさまで・・?」
美奈のことなど眼中にないという様子で瑠奈はラナの元に行くと、言った。
「今井さん、今日はわたくし、こういうものを持ってきましたの。」
どさどさっとパンフレットがラナのベッドの上に落とされた。
ラナはそれらを手にとって見た後、静かに言った。
「ホスピス・・?」
「そうよ、今井さん。貴女の終の棲家にはこういうところの方がいいと思って・・」
瑠奈の勢いに面喰っていた美奈だがホスピスの話を勝手に進めているのを目にして我に返った。
「ちょっと、貴女!どこのどなたかは存じませんけど、今井さんにホスピスなんて、なんて失礼な・・!」
瑠奈はきょとんとして言った。
「あら?わたくし、今井さんはがんでもう手の施しようがないって聞いてるんですけど?
それに貴女の方こそわたくしたちの話し合いに割って入ろうなんて本当に今井さんの知り合いなのかしら?」
冷笑を浮かべて瑠奈は言った。
「・・・!」
ラナはがんで手の施しようがない。そういう事実を分かっていても他人にそういうことをずけずけ言われるのは
いい気分ではない。美奈の口から怒声が出ようとした時、ラナが言った。
「ホスピスか・・いいわね・・」
「ちょっと、今井さん!このどこの誰ともわからない女の言うことなんか!」
「美奈、この人よ、和彦さんの許嫁。」
「許嫁・・」
美奈は和彦に許嫁がいることを知らなかった。だから余計に驚いた。
「でも、ラナは天野社長が・・」
美奈は納得しそうにない。しかし、唐突に色々な事が起こったので少し混乱状態に陥ったようだ。
その間隙をぬって瑠奈がラナに語りかけた。
「今井さん、貴女、終の棲家にホスピスを選ぶ気はないかしら?」