瑠奈と石川と名乗る青年はカフェで写真撮影の後も話をしていた。
瑠奈にとって外界の人間と話す機会が殆どなかったので石川の話す話は斬新で面白かった。
唐突に、石川は言った。
「ルナちゃん、もう少し時間、あるかな?いやー、話せば話すほど手放すのが惜しい逸材だよ。
君なら一気にトップに上り詰められるよ」
「わたくし、そういうことにはあまり興味がないのですけれど・・」
「とにかく、一度騙されたと思ってうちのオフィス、見学していかない?タクシーで少し行った
ところにあるんだ」
と、石川がカフェのお金を清算して瑠奈の手を取った時だった。
黒服の集団が瑠奈と石川を取り囲んだ。
「・・・探しましたよ、お嬢様。」
黒服が重々しく言う。
「え・・?ルナちゃん、これ、どういうこと・・?」
戸惑う石川。
その石川に黒服が言う。
「全く、三千院家のお嬢様に気安く近づくとは不届き千万。何が目的かは知らぬが、消えろ」
瑠奈は石川がしっぽを巻いて逃げると思っていた。数の上でも、体格的にも石川に勝算は皆無だっ
たのだから。
しかし、石川の反応は違った。
「三千院の娘?そんな人がこんなところにいるはずじゃないか。この娘に手を出そうとしてるそっ
ちこそ、やましい立場なんじゃないの?」
その時、黒服の一人が瑠奈がテーブルの上に置いていた名刺を手に取った。
「リコリスプロダクション・・石川・・」
呟くと、名刺をポケットに入れた。
「おいおい、これは僕が彼女に渡したんだ。お前たちに渡した覚えはない。」
周囲がざわついてきた。
そりゃそうだ。明らかに場違いな黒服の集団と一人の青年が口論してるんだから。
瑠奈はどうしていいかわからず戸惑うばかりだった。
石川と黒服の口論は続く。
「ほら、とっとと消えろ。」
というと黒服は石川に十万ほどの札束を投げだした。
「ふーん、ますます怪しいや。お前たち、本当に三千院の者か?ヤクザがらみなんじゃないの?
大方この娘を利用して何か企んでるんだろう」
「な、何を・・!」
「行こう、ルナちゃん!」
石川は黒服があっけにとられた瞬間をねらって手を取って走り出そうとした。
しかしそれは徒労に終わった。
その瞬間、石川が吹っ飛んだ。
黒服の一人が石川を殴り飛ばしたのだ。
「・・・・!」
悲鳴が周囲で響いた。
「さぁ、お嬢様・・」
いつの間にか横付けされていたリムジンに瑠奈は放り込まれるように乗らされた。
店舗の後片付けと騒動の謝罪を黒服がおこなってるとき、ふと、テーブルに目が行った。
そこにはフィルム式の一眼カメラがあった。
「これも一応預かっておくぞ。心配するな、あとから返す。」
石川にそう言い放つと、一万円札数枚を投げ渡し車は出発した。
後には石川と遅れてやってきた警官、そして野次馬が取り残された・・