瑠奈がその声に振り向くと、さえない容姿の男性が立っていた。
「わたくしに、何かご用ですか?」
冷たい瑠奈の問いかけにその男性はたじろぐ様子もなく言った。
「こんな美人を街中で見ようとは思わなかったので、つい声をかけてしまいました・・」
言いながらはにかむ彼になんとなく親近感を覚えた瑠奈だった。
「立ち話もなんですから、ちょっとお茶しませんか?良いカフェ、知ってるんですよ。」
彼はそういうと、瑠奈の顔を伺った。
こんな体験は初めてだった。
同級生ですらこんな誘いはしなかったのにこの目の前にいる男性は私を誘っている。
危険な香りはするものの、普段三千院の奥で匿われるように育った瑠奈には刺激的だった。
「いいですわ。お供しましょう。」
「よかった!実はほんの目と鼻の先なんですよ。」
瑠奈は彼に手をひかれて街を歩いて行った。
瑠奈は警戒はしていた。外界の人間は三千院の財産を狙ってあらゆる手を尽くすので人間とは
距離を保つように、と言われて瑠奈は育ったからだ。
しかし、目の前のみすぼらしい彼は三千院の娘という肩書を知らずに私に言いよってきたはず・・
だとしたら私の容姿もまぁまぁじゃない・・?
悪い気はしなかった。はじめて私個人を見てくれる人が出てきたんじゃないか・・?
世間知らずの瑠奈はそんなことを考えていたのだった・・