三千院瑠奈は三千院財閥の一人娘としてこの世に生を受けた。
両親は跡取りとなる男の子を切望していたらしいが、それは瑣末なことになった。
というのも瑠奈が物心つく以前に瑠奈の両親は婿養子として資金援助をした天野商事の一人息子を
跡取りに迎えることを決めていたからだった。
ただ、両家の取り決めで二人が会うのは物の分別が付く大人になってから、という取り決めがなされた。
二人とも両家には大切な跡取りだったのでむやみに会わせるというのに抵抗があったのだろう。
そこでもしトラブルがあったら・・ということを恐れたのかもしれない。
瑠奈は幼稚園から大学までミッション系の女子校で育っていった。
男子という異性を排除した女の園で瑠奈は青春時代を過ごした。
行き帰りは家から送迎がなされて徹底して外部と隔離された生活を送った。
瑠奈が財閥の娘というのはクラスメートも知っていて、それゆえに近づいてくるものも殆どおらず瑠奈は
寂しい学生生活を送った。しかし瑠奈は寂しいとは思わなかった。
なぜならそういうのが当たり前で寂しいという感情の意味を知らなかったのだ。
瑠奈が高校の時だった。
瑠奈はふと思い立って迎えの車が来る前に学校を抜け出した。
一度外界を見てみたかったのだ。
そこで見た世界は瑠奈がきいていたのとはずいぶん違っていた。
賑やかで活気があって三千院の静かな環境とは全然違った。
その時、瑠奈に声をかけてくる人がいた。
「あ・・あの・・今、お暇・・ですか?」