第4章ー再会ー

 今回当選した高級ディナーを提供してくれるホテルは智代の家から歩いて20分くらいのところにあ
 った。
 タクシーでも呼ぼうかとラナは言ったが、久しぶりに繁華街を歩いてみたいという智代の提案通り、
 徒歩で出かけることになった。
 
 季節は春の終わり。空気が土と緑のにおいをはらむ季節だ。
 智代はこの季節のにおいが何ともいえず好きだった。
 なんというか「生命の息吹」を感じて、自分にもそのエネルギーが分け与えられるような感覚になっ
 たのだ。
 
 他愛ないお喋りをしながら繁華街を歩いて行くと後ろから声がした。
 「・・今井・・ラナ先輩?」
 振り返るとラフな服装の女性が立っていた。
 年齢はラナとさほど変わらないように見える。髪はショートカットだが、少しまとまりを欠いている。
 「あらぁ!影崎!元気にしてた?」
 「まぁ、ぼちぼちですぅ・・」
 「ところでラナ先輩、こちらの方は・・?おめかしして・・まさかデート・・?」
 「こらっ!私たちは女性同士じゃないの!そんなこたーない。紹介するわ、私の担当作家の城野内智
 代さん」
 ラナは智代を指差して「影崎」という女性に紹介した。人見知りする性格の智代はうつむいてぺこり、
 と頭を下げた。
 「こちらは私の大学のサークルの後輩、影崎姶良(あいら)っていうの。」
 「始めまして、智代さん、私影崎姶良と言います。ラナ先輩には大学時代たくさんお世話になって・・」
 「はーいストップ!長話になるでしょう?立ち話もなんだから喫茶店で少し話しましょう。智代、時
 間、大丈夫よね?」
 「うん・・予定より早めに出てきたからまだ余裕・・」
 「それなら、決まり!」
 ということで、3人はそばにあった喫茶店に入った。
 
 「・・で、影崎、お前、今何やってるんだ?OLしてるって聞いたけど・・」
 「はい、その勤務先の上司がとんでもないセクハラ野郎でしてぇ、私、腹が立ったから内部告発して
 やったんですよ。そし
たらその上司、首になって・・そこまでは良かったんですけど、私も会社に居
 づらくなって・・退職する羽目になってしま
いました・・」
 「・・・すまない、変なことを聞いた。」とラナは言った。
 「そこでフリーター稼業ですぅ・・」
 「フリーターか・・まぁ、お前には合ってるかもしれないなぁ・・」
 「智代さん・・でしたっけ?ラナ先輩の担当作家ということですが、どういうお話を書かれてるんで
 すか?」
 と姶良がきいた。
 「それは・・」初対面の人とは話しにくい智代。マイペースな姶良。会話はぎこちなくなるのは見え
 見えだった。
 ラナが引き取った。
 「智代は小説家なの。「葉山晴香」って知ってる?」
 「えぇぇぇぇぇ!!!!!」
 姶良が素っ頓狂な声を上げる。喫茶店中の視線が3人に集中した。
 「こ、こら!こんな声あげるやつがいるか!」
 ラナが姶良をしかる。
 「ご、ごめんなさい・・こんな有名作家さんと会えるなんて思わなかったんで・・私、大ファンなん
 です。」
 「ど、どうも・・」智代が照れながら礼を言う。
 智代はこんな風に読者の反応をストレートに受け取るのはそう機会がなかったのですっかり照れてし
 まった。
 
 それから、3人で近況や姶良の今後を少し話した。
 そうしてるうちにディナーの時間が迫ってきた。
 
 「悪い、影崎。私たち、そろそろ行くわね」
 「ああー、いぇー、こちらこそお引き留めしてすみませんでしたぁ・・」
 「それじゃぁ、智代、行くわよ」
 
 喫茶店の代金を払って智代とラナは店の外に出た。
 「マイペースな人ね。」智代が言う。
 「まぁねぇ、あれがあいつのいいところでもあって悪いところでもあるんだけど、セクハラで内部告
 発で退職か・・
激動だなぁ・・」
 「姶良さん・・でしたっけ?この町に住んでるのかしら?」
 「さぁなぁ、大学のOB会にはあいつ、入っていないはずだしなぁ・・」
 
 などという会話をしていたらホテルに着いた。
 高級ディナーの前にひとまず姶良のことを忘れて食事に夢中になる2人であった。

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