第34章ー自由への逃避ー

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ラナは和彦の携帯に何度も電話をかけてみた。
 しかしいつもコールはするがつながらない。
 留守番電話にもならなかった。
 あら?おかしいわね・・番号の控えが間違ってるのかしら?
 そうだ、外泊許可を申請してみよう・・
 そして和彦に会いに行くんだ。
 ラナは担当医の竹内との面会を申し込んだ。
 
 面会室でラナは切り出した。
 「先生。私、外泊したいんです。」
 眉をひそめる竹内。
 「今井さん、今の状態では外泊はちょっと許可を出せないですねぇ・・」
 「どうしてですか?」
 
 竹内は危うくラナの現状を喋るところだった。
 それを妨害したのは初音との約束だった。
 初音はこう言った。
 「先生、今井の病気のことは私たちから話したいんです。近しい人からじっくり話をしてあげた
 いんです。
だから先生の口から今井のがんのことはなるべく伏せておいてください。お願いしま
 す。」
 初音は苦悶の表情を浮かべて言った。
 この人も部下ががんで助かる見込みが薄いということに苦しんでいる、ということを悟った竹内
 は初音の提案に
了解したのだった。
 
 「いや、外泊にはまだ少し体力的な面で不安がありまして・・」
 「どうしても、ですか・・?」
 落胆の表情を浮かべるラナに竹内は自分が病気のことを隠してることに罪悪感を覚えながら言った。
 「がんばって体力が戻れば許可を出しますから・・」
 「はい・・」
 難攻不落を感じたラナは引き下がった。
 しかしラナはバイタリティーのある女性だった。
 病室に戻ると智代が外泊許可が下りたら・・ということでロッカーに持って来ていた外出用の洋服
 に着替えた。
 (もちろん智代はラナの現状から外泊許可が下りないということは知っていたが気休めにそうしてい
 たのだ)
 夕陽の影が長くのびる病院は見舞客の姿もちらほらだが見える。
 よしっ、これに紛れよう・・
 とラナは歩きだした。看護師や医師に見つからないように祈りながら・・・
 
 ラナは病院を脱走した。
 

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