「・・・」
視界がぼんやりする。頭もボーっとして考えがまとまらない。
ああ、そうだ、手術を受けたんだったわね・・
ラナは思った。
ラナは周囲を見回した。
智代が視界に入ったが、疲れているのか椅子に座ったまま眠っているようだった。
他にはだれもいなかった。
窓を見たら夜であるらしくカーテン越しに闇が見えた。
それを確認したらまた眠気のような思考停止の状況がやってきてラナは眠りについた。
今度の目覚めははっきりしていた。たぶん体内の麻酔薬が抜けたんだろう。
陽の光が差し込む病室。智代が花瓶の花を換えているところだった。
「・・・智代・・」
ラナは智代を呼んでみた。
びくっとして智代はラナを見た。
「あ、あら。ラナ、目が覚めたの?」
「ええ、夜中に一度眼が覚めたんだけど寝ちゃったみたい・・」
「そ、そう・・」
「ねぇ、智代?いい天気ね・・お日様ってこんなに明るかったのね・・」
「そうね。今日はいい天気。いつも晴れてたら気分も健やかなんでしょうけど・・」
「・・?」智代の言葉の語尾が曇る。
「智代?私の手術はどうだった?」思わずラナは智代に問いかけた。
智代の顔がひきつったように見えたが、気のせいだろうか?智代はにこやかに答えた。
「成功よ。ただ、ラナの体力ぎりぎりの所まで手術時間を延ばしていたので元気になるには
少し時間がかかるんだって・・」
咄嗟のこととはいえ、智代は自分の口から出た嘘に驚いた。
嘘をつくのがへたくそな私がこんな嘘を言い繕えるなんて・・・
ラナは納得したのかしなかったのかよくわからない表情ではあったが、少し考えて、
「そう、助かったんだ、私・・」
喜びをかみしめるように呟いた。
智代は言えなかった。手術できないほどラナの体がガンにむしばまれていることを。
そして嘘を言ってラナをある意味で裏切ったことに罪悪感を感じた。
その場にいられなくなって智代は言った。
「私、花を入れ替えてくるね・・そしてラナも目が覚めたし、一度家に帰るわ。
ちょっと原稿も押してるし・・」
「そう・・私のことは置いといて原稿、頑張ってね。」
「・・・」
智代は何も言わず病室を出て行った。
智代が出て行った後、ラナは少し考えた。
智代の挙動が不審であることはラナには明らかだった。
智代と付き合ってもう7年になる。
さすがに家は別々だが仕事現場で顔を突き合わせている分、お互いのことはある程度言葉なし
でもわかるようになったと思う。
智代の挙動が不審になるのは智代が嘘をついてるか何か隠してる時だ。
嘘?智代が一体私に嘘をつくとしたら一体何だろう?
少し考えたが寝起きのぼんやりした頭では思考が纏まらなかった。
ラナは手術が成功したと信じ切っていたので、智代の挙動が不審なのは明らかだが真実はよく
分からなかった。
今度智代に尋ねてみよう・・
そう思いながらも手元の紙の方がラナには気がかりだった。
「・・・」
もう少し考えが纏まるようになったら和彦に電話してみよう・・
ラナは和彦から渡された和彦のプライベート用の携帯番号が記された紙を手に思った。