「申し訳ありません・・」
医師は沈痛な表情で言うと、智代と初音と美奈に頭を下げた。
「ど、どういうことですか・・?」
智代がひび割れた声でたずねた。
「・・立ち話もなんですから、応接室でお話しします・・」
と言うと医師は3人を応接室に案内した。
「・・・」
「・・・」
気まずい沈黙。重い空気。それらが医師と3人を取り巻いた。
初音が口を開いた。
「・・で、どういうことですの?今井は、治るんですか?」
「・・実は、今井さんのガンはほとんど手をつけられなかったのです。ガンがもう全身に転移し
ていて・・」
「そして今井さんの体力の問題がありました。出来るだけがんを切除しようとしたら膨大な時間
がかかる。しかし今の今井さんにはそれに耐えられる体力がもうないと判断しました・・」
「医師である私がこんなこと言うのは反則だとは思うのですが、今井さんがもう少し早く決断して
くださっていたら、結果は変わったかもしれません・・」
初音は語気を強めていった。
「今井は・・もう治らないんですか?」
「もちろん私たちもできる限りのことはします。抗がん剤に、放射線・・あらゆる可能性を視野
に入れますが、正直ガンがここまで進行していたらどこまで効果が出るか・・」
初音は黙ってしまった。
智代はそれを聞いてしくしく泣いている。
美奈に至っては放心状態だ。
どれくらい時間が経ったか、医師はいつの間にかいなくなっていた。
初音は思った。
この件、どう切り出そうかしら・・?嘘を言っても自分の体のことだからいずれわかる時が来る。
そんなくらいなら・・
智代は思った。
たとえ手術ができないとしても奇跡ということがある・・
神様、もしいらっしゃるならラナをお助けください・・
美奈は思った。
ラナ・・同僚の貴女がこんなことになるなんて・・
もっと早くに手術しておけばよかったのに、何が聡明な貴女の判断を誤らせたの・・?