ラナは驚いて顔を上げた。
確かに、初音の言うようにラナは学生時代、正確にいえば大学のときに恋をしたことがあった。
そしてその恋を今でも引きずっていてそれがラナを恋愛から遠ざけているということを自覚していた。
しかし、このことは誰も知らないはずだった。
第一、誰にも喋った記憶がない。
一瞬、智代や美奈に喋ったかしら?とも考えたがどう記憶の糸を手繰っても喋った記憶はない。
「編集長代理、どこでそれを・・」
「・・・・」
「・・・・答えて、ください・・」
懇願するような、しかし強いラナの口調に初音は口を開いた。
「今井さん、実は貴女が生きることにそう積極的でないということを聞いたのは今回で2度目なの。あのとき
もそうだった、もう自分は死んでしまいたい・・とね。」
「・・・・」
「今井さんは覚えていないのも仕方がないかもしれないわね。今井さんが入社したての頃で、しかも貴女は酔い
つぶれていたのだから・・」
「・・・」
「・・・・」
「・・・・!」
ラナに電撃が走る。そう、語られたシチュエーションがかつてあった。
新入社員の頃、飲み会で酔いつぶれた時のことだ。
あの時、初音に愚痴をこぼした記憶はあったが、それは担当作家とウマが合わないということだけだと思っていた。
まさか、こんなことをべらべらと喋っていたなんて・・
ラナの顔が恥ずかしさで真っ赤になった。
それを見やると初音は窓の外の日が沈んで暗闇に没そうとしている空を見て言った。
「貴女は学生の時、恋をした。しかし、その恋が実らなくて、男性が怖くなった。そして仕事もうまくいかなくて困ってしまって人生に絶望した。そう、貴女はかつて私に言いました。しかしあれからもう何年もたったし、葉山先生との関係も良好と聞いていたから、そんな「過去の傷」は消えたのかと思っていたけれど、間違っていたよ
うね・・」
「私は、他人のことについてあれこれを詮索することが嫌いです。しかし、今回は貴女の命がかかってるので大いに干渉させてもらいます。今井さん、話して。過去の恋愛のこと、そしてその後何があったのかを・・」
初音がこんな頼み込むような態度でラナに接するのは初めてだった。
初音はいつも冷静で感情などないロボットのように仕事をこなす仕事人間にしかラナは見ていなかったからだ。
ラナは決意した。
「編集長代理、少し長くなりますが、いいですか・・?」