「今井さん、貴女、死にたいの?」
がんでありながらその治療をかたくなに拒否するラナに向かって佐野初音編集長代理は問いかけた。
「・・・もう、いいんですよ・・私も十分に生きましたから・・」
「・・・」
「編集長代理は知らないと思いますが、私、もう生きることに飽き飽きしていたんです。同じ日の繰り返しの中に
埋没してしまうことがすごく嫌で、かといって新しい何かを始めようにも何を始めたらいいかもわからない。
そうしてるうちに生きてることへの飽きが出てきて、そこに今回のがん。天啓だと思いましたわ・・」
「葉山先生がこれを聞いたらなんというかしら・・」
「・・・智代には、秘密にしておいてください・・」
「あら、どうして?治療を拒否する貴女を説得できそうな人なら、私、誰でも呼びつけるわよ。」
初音が言う。
「それに・・今井さん、貴女、また嘘をついてるわね。」
ぎくっとラナが初音を見る。
「貴女の先ほどの能書きは半分は本当なんでしょう。確かに社会人になれば同じような毎日の繰り返し。
その上気を使ったり失敗できない場面も出てきてストレス面では学生時代の比ではないことは私も責任ある立場につ
いて実感しています。でも。」
初音はラナを鋭い目で見て言った。
「貴女は私に嘘をついている。嘘をつくとき、貴女は顔に出ると私、この前言ったわよね?今回も顔に出てるわよ。」
「・・・・」
「・・・今井さん、私、そんなに信用できないかしら?」
「違うんです、編集長代理・・」
「・・・」
「・・・」
しばらく、静寂が病室を支配した。
初音がぽつりと口を開いた。
「学生時代の恋愛が、絡んでいるのかしら・・?」