ラナは病院に収容された。
以前よりなんだか重々しい雰囲気で行われる検査の数々。
正直辟易した。
はぁ、こんなところで寝てるだけってのもねぇ・・
入院してしばらく経った頃、ラナは担当医、竹内の部屋に呼ばれた。
竹内は胃カメラの写真や数値やグラフの入った表を見せて、言った。
「今井さん、率直に申し上げます。貴女はがんです。胃がんです。しかもだいぶ進行していて今すぐにで
も手術をお勧めします。」
「・・・」
「化学療法や放射線治療なんかも必要になるでしょう。とにかく、今は一刻を争う非常事態だと認識して
ください。」
「そこでですね、とりあえず手術に同意していただく必要があって・・」
まくしたてるように話す竹内の言葉をラナが遮った。
「お医者さん、私、自分が多分がんだってことはわかっていましたよ。これほど胃が痛くて食欲がなくて
痩せて行くなんて尋常じゃない。ええ、わかってたんですよ・・」
「じゃぁ、なぜもっと早くに診察を受けなかったんですか?」
「ちょっと色々ありまして・・」
「とにかく、手術です。手遅れになりたくないでしょう?」
その時、ラナの表情が変わった。
力が抜けて視線が遠くに行った。
「いいですよ、手術なんて。どうせもう十分生きた命ですもの。これはむしろ神がもういい、と言ってる
んですわ」
「ちょっと、今井さん!」
「私、手術は受けません。いかなる延命の治療も拒否します。そんなことしたら裁判に持ち込みますよ?」
裁判、と聞いて竹内がたじろぐ。
「それじゃぁ、部屋に戻ります。」
部屋には茫然としている竹内が残された。
竹内はラナのカルテを出してラナの記述に目を通した。
そしておもむろに電話に手を伸ばした。
「もしもし、私、S病院の今井ラナさん担当の竹内と申しますが・・」