病院脱走後、看護師が何かと様子を見に来るようになったので、脱走するわけにもいかず、ラナは
病室で大人しく過ごした。
本を読んだり見舞客と話したりしていたが、和彦は姿を見せなかった。
携帯電話もつながらなかった。
おかしいわね・・何があったのかしら?
このことを考えているとラナは頭が煮詰まってしまったので気分転換に点滴チューブを下げながら
院内を歩くことにした。
歩くのは倒れてからはじめてだった。
足の筋力というのは歩かなくなると一気に落ちるというのはどうやら本当らしく、少し歩くと足が
痛くなってきた。
少し休憩・・と思って目を廊下の奥に見やると美奈が来ていた。
声をかけようとしたがそれは声にならなかった。
なぜなら美奈は泣いていたからだ。
ラナはできるだけ気づかれないように美奈の声が聞こえるところまで来て聞き耳を立てた。
話し声の相手はどうやら竹内医師らしい。
「・・・私、辛いんです。今井さんがこのまま弱っていくのをただ見てるしかないのかと思うと・・」
「私どもも手は尽くしてるんですが、対症療法しかできないというのが関の山で・・申し訳ありま
せん。」
「先生、何とか今井さんを助けてください・・」
美奈がおいおい泣きながら竹内に懇願している。
「しかし今井さんは見た目回復の気配すら感じるんですよ。やはり恋人という存在が彼女の生命エネ
ルギーを燃え上がらせてるんでしょうか。でも、このままでは・・私個人の意見ですが、今井さんに
告知をなさって今後のことを話し合ったほうがいいと思いますよ。」
「・・・言えるわけ、ないじゃないですか!今井さんが・・もう長く生きられないって!」
ラナに衝撃が走った・・