第29章ー泡沫(うたかた)の平和ー

 
 
 
 
 
 
 智代と和彦の対談後、和彦は一日のうち本の短い時間だが毎日のようにラナに会いに来
 るようになっていた。
 交わす会話は他愛ない内容で特筆するべきものはそう多くはなかったが、それでも元気
 になったら・・という話を
二人はしていた。
 ラナは相変わらず痩せていたが和彦と話しているときは乾燥した大地に水が沁み入るよ
 うにその顔に生気がみなぎった。
 その様子を見て智代はひょっとしたら奇跡は起こるんじゃないか?
 あるいは、奇跡とまではいかないまでもラナの病状は改善するんじゃないか?とすら思った。
 実際、和彦と話すラナは智代と話す時とはまた違った意味で生き生きとしていて智代は
 少し嫉妬に近い感情を抱くほどだ
ったのだから。
 初音はその報告を智代から、また看護師長から聞いていて、自身は仕事の都合上なかな
 かラナを見舞いに行けなかったが少し安堵に近
い感情を持っていた。
 誰もが「奇跡は起こるかもしれない」と思い始めた・・

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