第16章ー回想(2)ー

 
 
 天野和彦。彼はサークルでラナの一つ上の先輩であった。
 とても穏やかな性格で、ラナもサークルのみんなも彼が怒ったのを見たことがなかった。
 そんな彼の周りには女子より男子が群れていて、あれこれと楽しんでいるようだった。
 ちょうどキャラ的にラナの「クイーン」としての立ち位置に似てなくもなかった。
 そんな和彦だが、彼女という存在はおらず、また浮ついた話は一切なかった。
 何というか彼は「女性と距離をとっている」ように、ラナには見えた。
 そんな和彦とラナをくっつけようと始まった計画。
 あるときは、皆で一緒に行くはずの遊園地に和彦とラナ以外の皆が用事で来れなくなって二人で周ったり、
 またあるときはラナの前であからさまに和彦にラナを売り込んだり・・
 
 ラナはそういう計画に全く気がつかないほど鈍感ではなかった。
 しかし、まぁ、この人なら一度恋愛してみるのもいいか、と最初は思っていた。
 一方の和彦は本当に鈍感なのか、気が付いていないふりをしているのか、一切ラナとの距離を縮めようとは
 しなかった。
 
 計画は思ったほど進展しなかった。
 当事者の一人である和彦が全く変わらなかったからだ。
 普通、これだけ接する時間が多ければ相手のことを少しは聞いてきたりするものだが、和彦はラナには必要
 以上の詮索はしてこなかった。
 そんなだから、ラナの方も和彦との距離を縮められなかった。
 しかしいつのころからか、和彦の穏やかな雰囲気がとても居心地良く感じるようになっていたのだった。
 
 結局、在学中にラナと和彦の間には特別な関係は芽生えなかった。
 しかし、そんな二人の関係を縮める事件が、和彦が大学を卒業する日に起こったのだった。

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