第38章ー虚構の崩壊ー

 
 
 
 ラナは美奈の言葉が最初理解できなかった。
 「ワタシガソウナガクイキラレナイ・・?」
 がんは切ったと言っていた竹内医師や智代や初音、美奈の言葉は嘘だったの・・?
 そう考えたら智代のさえない表情やみんなのよそよそしい態度など合点のいく部分があった。
 それらはラナが考えていた不自然さにジグソーパズルが1ピースずつはめ込まれるように矛盾を解消し
 ていった。
 「・・・」
 ラナはゆっくりと病室に帰った・・
 
 「今井さん、ごめーん。ちょっとタクシーが混んでて・・」
 しばらくしたら美奈が病室に現れた。
 「これね、今井さんの好きなリンゴにバナナ・・少しなら食べられるでしょ?」
 美奈は明るさを装っている。ラナが「真実」を知るとも知らずに・・
 「・・今井さん?しんどいのかしら?」
 今更ながらにこやかに話しかける美奈が鬱陶しい。
 人の気も知らないで・・
 ラナは美奈にやつあたりに近い感情を抱いていた。
 「ねぇ、美奈・・」
 「なぁに、ラナ?」
 美奈はラナのことを2通りで呼ぶ。普段は「今井さん」と呼ぶが、ラナが下の名前で呼ぶと自分もラナを下
 の名前で呼ぶ。
 なぜかはよくわからないが、知らずの間に美奈はそうラナを呼び分けていたのだ。
 「・・私、死ぬのね・・」
 「!」
 美奈の顔がこわばる。美奈はこわばった顔で必死に笑顔を作っていった。
 「ラナ、どうしたの?お医者様も数値はよくなってるって・・」
 「・・さっき、竹内先生と喋ったたでしょう?あれ、聞いちゃったの・・」
 「・・・」
 「どうして言ってくれなかったの?それならそれなりの心づもりもあるのに、嘘つくなんて最低!
 皆、嘘ついてたのね!智代も、編集長代理も、貴女も!」
 ラナは動揺していた。だからこんなに乱暴な言葉づかいをするのであって普段のラナがこんなことを
 いうことはまずなかった。
 美奈は驚き、ラナが真実を聞いてしまったという偶然を呪った。
 美奈は泣きだした。
 「ごめんなさい・・ラナ。でもがんが治らないって聞いたらきっとラナは生きる希望をなくすと思ったの・・」
 「・・・」
 「それに和彦さんと喋るようになってラナ、本当に輝いてた。だから事実を告げられなかった・・」
 美奈が嗚咽交じりに吐露する。
 「・・・和彦さんはこのことを・・?」
 「ええ、知ってるわ・・だから彼、無理にでも会いに来てくれたのよ・・」
 「ちょっと待って・・それならどうして最近和彦さんは来てくれないのかしら・・?」
 「?和彦さん、来てくれてないの?そんなはずないわ。編集長代理がお見舞いに行くように話をつけ
 てくれてるはずよ。」
 美奈は嘘は言っていないと思った。ここでこれ以上嘘を言っても無駄だということは美奈自身が知って
 ることのはず。
 和彦が来ない理由・・
 「!」
 思い当たる節が一つだけあった。
 瑠奈という女性が来た。それ以降だ。和彦が来なくなったのは・・
 というのはあの女が・・?
 「ラナ?」
 「・・・ちょっと、一人にしてほしいの・・」
 ラナは人払いをして和彦の携帯を取ると留守電に吹き込んだ。
 「今井です。和彦さん、病院に来て下さらないかしら?残り少ない私の命、貴方と過ごした色で一杯
 にしたい・・」

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