第30章ー恐怖の訪問者ー

 
 
 
 
 
 
 
 「社長、今日もお出かけですか?」
 秘書の袴田が尋ねる。
 「あ、ああ・・ちょっとしたら戻るから。」
 「例の女性のところですか?」
 「そうなんだ、病人を見舞いに行くのが、何か問題かな?」
 和彦は嘘をつくのもどうかと思い、秘書には大学時代の後輩ががんで自分の見舞いを必要にしている
 という旨を伝えていた。
 「問題とは言いませんが・・」
 袴田は相変わらず歯切れが悪い。きっと三千院との関係に関して気をもんでるんだろう。
 まぁ、いいさ。別に今のところ問題は起きていない・・
 和彦はそう思い、袴田を社長室に置き去りにして出かけて行った。
 
 「・・・」
 袴田は少し悩んだようだが、携帯電話を取り出してボタンを押した。
 「もしもし・・」
 
 「凄いわ、今井さん!」
 看護士が声を上げる。
 「病状に改善がみられるわ。このままいけば体力さえつけば一時外泊も夢じゃないかもしれないわよ!」
 「一時外泊か・・早くしたいわね・・」
 もちろん、ラナは自分ががんは手術で取り去ったと信じて疑わないのでこういうことがいえるのだ。 
 実際、和彦が面会に来るようになってラナの体のいろいろな検査数値は改善している項目もあったのだ。
 ラナは病室の窓から遠くの景色を見て「早く外に出たいなぁ・・」と呟いた。
 その呟きを傍にいた智代は複雑な表情で見ていた。
 そこに和彦がやってきた。
 「今井、今日も来たよ。」
 「和彦さん・・」
 ラナは今では和彦のことを下の名前で呼んでいた。それはラナが気を許したということでもあり、親愛
 の感情を抱いているという
証左でもあった。
 「ラナ、私席外すね・・」
 智代は病室から出て行った。
 ラナの体調が良くなるにつれて会話は弾むようになった。
 おもに大学時代の思い出話だったが、ラナは幸せな時間を過ごした。
 
 そんなある日、和彦が社長室で執務してると突然に面会の客が来たという。
 「誰だい、アポなしってあんまり歓迎しないんだけどな・・適当な理由でまた後日ってわけにはいかない
 のかい?」
 仕事がたまっていた和彦は少し不機嫌に言った。
 袴田は言った。
 「それがそうもいかない方なんです」
 和彦は顔をあげて不思議そうな顔をした。
 誰だろう?
 袴田は無表情に言った。
 「三千院・・三千院瑠奈様です・・」

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