第17章ー回想(3)ー

 
 
 
 天野和彦は無事、大学を卒業することになった。
 サークルでも和彦とその他の卒業生を囲んで飲み会が行われた。
 はぁ、結局、このもやもやした想いは何だろう?恋なのかしら?
 とかいうことをラナはずっと自問していたが、答えが出なかった。
 
 一方、ラナと和彦をくっつけようとしていた女子たちもこれが最後の機会と、思い切って男子部員にも
 この計画を打ち明けて、飲み会の後、ラナと和彦がさりげなく2人きりになるようなシチュエーションを
 画策していた。
 
 飲み会が終わって、少しお酒が入っていつもよりニコニコしている和彦。
 皆で2次会に行こうということになった。
 そうしているとラナは言われた。
 「ラナ、私たち他の先輩の介抱とか会計とかあるから、天野先輩と先に近所の公園に行っていて。」
 そう言うと皆そそくさとラナと和彦のもとからいなくなった。
 「仕方ないですね、天野先輩、行きましょう。」
 「そうだね、最後まで皆に世話をかけるなぁ」
 「天野先輩は今までサークルに貢献したんだからこれくらいは甘えてもいいんじゃないですか?」
 「うーん・・それもそうかな・・まぁ、皆の好意だしありがたく受け取っておくよ。で、公園に行け
 ばいいんだね?」
 「はい、天野先輩、足元が心配なので私が一緒に行きますよ。」
 
 着いた近くの公園は小さなものだった。
 遊具も少なく、ベンチも3つほどしかなかった。
 そのベンチに和彦を座らせるとラナは言った。
 「先輩、ミネラルウォーターかお水、買ってきますね」
 「ああ、それはありがたいな・・若干飲みすぎちゃったから・・」
 
 ラナがベンチから立った時、人影が近づいてきた。
 街灯に照らされたその人影は言った。
 「おい、姉ちゃん、一人かい?」
 中年の男で明らかに酔っぱらいだ。ラナは取り合わないことにした。
 すると、その男は急に怒り出した。
 「おい、この俺を無視するなんていい度胸じゃねぇか!」
 と言ってラナの手首をつかんだ。
 「やめてください、声を出しますよ」
 「構うもんか、ここは人通りが少ないんだ、俺といいところに行こうぜ」
 ラナは今まで男性に対してこれほどの嫌悪感を持ったことはなかった。
 「いや!放して!」
 「このアマ、俺が下手に出てりゃいい気になりやがって」
 その瞬間、ラナの頬に電撃のような痛みが走った。
 男がラナの頬をはたいたのだ。
 ラナの表情が凍りつく。
 「へへへ・・おとなしくしてりゃ、俺もこんなことはしなかったんだよ・・」
 本当に恐怖を感じると声が出なくなることをラナは聞いたことがあった。しかし、いざそういう事態になると
 それが本当だと認識せざるを得なかった。
 
 その時、暗がりで声がした。
 「おい、彼女を離せ」
 「・・?ああん?今いいところなんだよ!邪魔者はすっ込んでろ!」
 男が威嚇する。
 暗がりから出てきたのは和彦だった。
 「もう一回言う、彼女を離せ」
 「野郎!男に用はねぇんだよ!」
 男は和彦に殴りかかろうと向かって行った。
 
 「・・・ははは、助けに行って逆に助けられるとはね・・」
 顔をあざだらけにした和彦が地面に転がって言った。
 結局、和彦は男に返り討ちにあい、タコ殴りにされた。
 ラナが大声をあげると、人が集まってきたので男は逃げるようにどこかに消えていった。
 「・・・」
 ラナの両目から涙があふれる。
 「先輩、どうして・・」
 「決まってるじゃないか、大事な後輩が襲われそうになってるんだ、ここで逃げたら男がすたるよ」
 「・・・」
 「今井さんには格好の悪いところを見せちゃったなぁ。せめてあいつをぼこぼこにしてやりたかったんだけど・・」
 「先輩は、格好よかったですよ」
 「・・そう言ってくれたらありがたいなぁ。でも喧嘩なんてするもんじゃないね・・あいたた・・」
 「その言葉」はラナの口から自然に出てきた。
 「先輩?」
 「?どうしたの、今井さん?」
 「貴方が、好きです・・」

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